9年越しで訪れたかった宿へ
ずっと「いつか友人と泊まりたい」と思っていた宿がありました。
福島・磐梯熱海温泉の**「オーベルジュ鈴鐘」**。
以前、主人と宿泊したことがあり、とても素晴らしかったので「また絶対に行きたい」と思っていた宿です。
実はこの宿、友人と一緒に行こうと初めて予約したのは2011年3月31日でした。
そうです、あの年。
その20日前、3月11日に東日本大震災が起こりました。
宿に問い合わせると、「会津は大丈夫ですよ」と言っていただいた記憶があります。
それでも、あの時はどうしても旅行に出かける気持ちにはなれず、キャンセルしました。
それから9年。
2020年10月、ようやく友人たちと鈴鐘を訪れることができました。
2020年秋、「Go To トラベル」で福島へ
この旅行をしたのは2020年10月末。
新型コロナウイルスの影響で大きく落ち込んだ旅行需要を支援するため、国の**「Go To トラベル」**が実施されていた時期でした。
当時のGo Toトラベルは、旅行代金の35%が割引され、さらに15%相当の「地域共通クーポン」がもらえるというもの。
支援額は1人1泊あたり最大2万円。
ちょっと贅沢な宿にも泊まりやすくなる、かなり大きな旅行支援でした。
地域共通クーポンは2020年10月1日に始まったばかりで、
旅行先のお土産店や飲食店、観光施設などで利用することができました。
今となっては、これもコロナ禍の旅の記憶のひとつです。
ただ、この頃はいろいろな噂もありました。
「県外ナンバー、特に首都圏のナンバーの車は嫌がられるらしい……」
なんて話も耳にしていました。
今振り返れば、本当にいろいろな情報や噂に敏感になり、みんながドキドキしながら生活していた時代だったと思います。
それでも旅行好きの血は騒ぎます(笑)。
せっかくこんな制度があるのだから、ちょっと贅沢な宿に泊まってみよう!
でも、まだ遠くへ行くのは少し心配。
そこで、マイカーで行ける範囲の磐梯熱海を選びました。

晩秋の福島へドライブ
まだ10月末でしたが、福島へ向かうにつれて空気はひんやり。
道中、車の外気温の警告が出たりするほどでした。
その一方で、紅葉はとてもきれい。

コロナ禍で半年以上、どこか息を詰めるような生活をしていたこともあって、久しぶりに自然の中で思いきり深呼吸したことをよく覚えています。
1日目はゆっくり出発。
途中、景色のいいところで車を停めたりしながら、早めに宿へ向かいました。
全室離れの宿「オーベルジュ鈴鐘」

鈴鐘のお部屋はすべて離れになっています。
まさに「隠れ宿」といった雰囲気です。
案内された離れには、トイレ、洗面所とバスルーム、リビング、和室、さらにベッドルーム。
ミニキッチンまで付いていて、間取りでいえばなんと2LDK!
さらに、お部屋には外の景色を眺めながら入れるお風呂も付いています。
4人家族でも普通に暮らせそう(笑)。

ベッドルームはツインだったので、3人旅の私たちは和室に一組、布団を敷いていただきました。
部屋が広いので、それでも十分ゆったり。
そして、鈴鐘でもうひとつ楽しみにしていたのがお食事です。
地酒とともに楽しむ鈴鐘の夕食
以前泊まったときにも印象に残っていたのが、鈴鐘のお料理。
今回も地酒をいただきながら、ゆっくりと夕食を楽しみました。

食後は温泉へ。
札を掛ければ貸し切りにできる露天風呂があり、のんびりと楽しむことができます。
もちろん、お部屋にもお風呂が付いているので、どちらも利用しました。
天然温泉の源泉かけ流し。
お湯に入ると、お肌がすべすべするように感じる、とても気持ちのいい温泉でした。
この日は宿から出ることもなく、温泉に入り、部屋でのんびり。
そして、ぐっすり就寝です。
朝から豪勢!ゆっくり朝ごはん
翌朝も急ぐ必要はありません。
ギリギリまでゆっくり寝坊(笑)。
そして朝から、またまた豪勢なお食事をいただきました。

しっかり朝ごはんを食べて、2日目の観光へ出発です。
静かな猪苗代湖で感じたコロナ禍
まず向かったのは、宿からも近い猪苗代湖。
以前、東日本大震災の前に訪れたときには、もっと観光客がいて賑わっていた記憶があります。
ところが、この日は人の姿もほとんど見えず、閉まっているお店もありました。

美しい湖の景色とは対照的な静けさ。
観光客が訪れなくなった観光地の寂しさが、ひしひしと伝わってきました。
一度行ってみたかった「会津さざえ堂」
次に向かったのは会津さざえ堂。
実はここが舞台となった推理小説を読んだことがあり、この建物の構造がトリックに大きな役割を占めていて、一度行ってみたいと思っていた建物でした。

正式名称は円通三匝堂(えんつうさんそうどう)。
会津若松市の飯盛山にあり、1796年(寛政8年)に建立された、高さ約16.5メートルの六角三層の建物です。
「さざえ堂」という名前のとおり、内部はとても不思議な造りになっています。
建物の中に入ると、階段ではなく、らせん状のスロープをぐるぐると上っていきます。
そして頂上部分を通過すると、今度は別のらせん状の通路を下って出口へ。
面白いのは、上っていく人と下ってくる人が途中ですれ違わないこと。
二重らせん構造になっているため、同じ建物の中を歩いているのに、入口から最上部を通って出口に出るまで、基本的に一方通行で進むことができます。
国の重要文化財にも指定されている、とても珍しい建築物です。
小説でこの構造を知ったときには、文章を読みながら頭の中で想像していただけでしたが、実際に中を歩いてみると、
「なるほど、こうなっていたのか!」
と、ようやく腑に落ちました。
外から見るだけでもかなり個性的ですが、実際に中に入って歩いてみてこそ、その面白さが分かります。
200年以上も前に、こんな複雑で不思議な建物を造ったことにもびっくり。
もともとは参拝のために考えられた構造ですが、それにしてもすごいものです。
長年「一度行ってみたい」と思っていた場所。
ようやく自分の足でその構造を確かめることができ、ちょっとした念願達成でした。
飯盛山から鶴ヶ城を眺めて
さざえ堂がある飯盛山は、白虎隊ゆかりの地としても知られています。
戊辰戦争の際、会津藩の少年たちで編成された白虎隊。
そのうち士中二番隊の少年たちは戦いの中で飯盛山までたどり着き、ここから鶴ヶ城の方向を眺めました。
遠くに見える城下から上がる煙を目にし、鶴ヶ城が落城したものと思い、この地で自刃しました。
実際には鶴ヶ城はまだ落城していなかったのですが、そのことを知っているからこそ、飯盛山から実際に鶴ヶ城の方向を眺めると、胸に迫るものがあります。
私たちも遠くに見える鶴ヶ城を眺めながら、
「こんなに若い子たちが、ここでどんな気持ちでお城を見ていたんだろうね」
と、しばらく話していました。
今の感覚で考えれば、まだ本当に年端もいかない少年たちです。
歴史として知っている出来事でも、その出来事が起きた場所に立ち、同じ方向を眺めてみると、急に現実のものとして感じられることがあります。
推理小説を読んで「一度見てみたい」と思って訪れたさざえ堂でしたが、飯盛山では、それとはまた違った意味で心に残る時間になりました。
飯盛山から眺めた鶴ヶ城へ
続いて、先ほど飯盛山から眺めていた鶴ヶ城へ向かいます。
晴天の中、すっとそびえる鶴ヶ城は、凛とした美しいお城でした。

鶴ヶ城は、会津若松のシンボルともいえるお城です。
戊辰戦争では約1か月にわたる激しい攻防戦に耐えたことでも知られています。
現在の天守閣は1965年に再建されたものですが、2011年には幕末当時の姿を再現した赤瓦へと葺き替えられました。
白い城壁に赤い瓦が映えて、とても印象的です。
飯盛山から遠くに眺めたばかりの鶴ヶ城を、今度は間近で見上げると、白虎隊の少年たちが生きた時代に、また少し思いを馳せてしまいます。
城内を見学したあとは、紅葉の残る庭園をのんびり散策。
そして茶室でひと休みしました。
きれいに手入れされた庭を眺めながらいただくお抹茶は、歩いたあとの身体にほっとする味。

青空と鶴ヶ城、そしてお抹茶。
秋の会津らしい、ゆったりとした時間を楽しみました。
レトロな七日町と「渋川問屋」
旅の最後には、会津若松の町中へ。
このあたりには昔ながらの建物が残り、どこか懐かしいレトロな雰囲気があります。
少し歩いてみるだけでも、城下町らしい風情を感じられる素敵な町並みでした。
食事に立ち寄ったのは、七日町にある**「渋川問屋」**。
明治15年創業の元海産物問屋で、建物の中に入ると、まるで昔の会津にタイムスリップしたよう。

大正時代に建てられた母屋や、かつて帳場として使われていた蔵座敷などが残されていて、
古い建物が好きな私は、食事の前からすっかり気に入ってしまいました。
海のない会津では、かつて身欠きニシンや棒タラなどの干物が貴重な海の幸として運ばれ、それを使った独特の食文化が育ったそうです。
渋川問屋でも、にしんの昆布巻きや棒タラ煮、会津の祝いの席に欠かせない「こづゆ」など、昔から受け継がれてきた会津の郷土料理をいただくことができます。

華やかなご馳走というより、その土地で長く食べ継がれてきた料理を、歴史のある建物の中でいただく。
旅先ならではの、ちょっと特別な食事になりました。
食事を終えてからも、七日町のレトロな町並みをぶらぶら。
実はこの頃、私たちにはもうひとつ気になっていることがありました。
まだ使い切れていない「Go To トラベル」の地域共通クーポンです(笑)。
使い切れない地域共通クーポン、最後は馬肉に!
地域共通クーポンが始まったばかりだったこともあり、旅行中、使えるお店を探してはいたのですが、なかなか見つかりませんでした。
「ここは使えるかな?」
「ここもダメか……」
そんなことを繰り返しているうちに、旅もそろそろ終わり。
「このままじゃ使い切れないね」
「帰りのサービスエリアでお土産を買うしかないかな?」
なんて話していたのですが、最後の最後、会津若松の街なかで使えるお店を発見!
そこで、会津名物の馬肉を買って帰ることができました。
旅先でもらったクーポンを、その土地の名物に使って持ち帰る。
終わってみれば、これはこれで大満足の使い道でした(笑)。
コロナ禍だからこそ心に残った旅
2020年。
自由に出かけることが当たり前ではなくなり、首都圏でどこか息を詰めながら過ごしていた時期でした。
そんな中で出かけた、久しぶりの友人との旅行。
美しい紅葉の中で思いきり深呼吸し、ずっと友人と訪れたかった鈴鐘に9年越しで泊まり、温泉と美味しい食事を楽しむ。
念願だったさざえ堂を歩き、飯盛山では歴史に思いを馳せ、青空の下の鶴ヶ城を眺める。
そして最後は、使い道に困っていた地域共通クーポンで馬肉を買って帰る(笑)。
今振り返ると、観光地そのものだけでなく、「あの時代に旅に出た」ということまで含めて記憶に残っている旅です。
コロナ禍の中でのこの旅行は、半年以上どこか鬱々としていた気持ちを、自然の中で少し解放してくれた特別な時間となりました。
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