自分の骨で手術を受ける。
そう決めてから、現実は一気に動き始めました。
それまで「いつかやること」だった手術が、
検査、貯血、入院準備……と、
具体的なスケジュールになって目の前に並んでいきます。
入院予定は約4か月。
しかも退院すればすぐに普通の生活に戻れるわけではありません。
家のこと、子どもたちのこと、仕事のこと。
そして、自分自身が長い入院生活をどう過ごすのか。
今思えば、この時期が精神的には一番不思議な時間だったかもしれません。
「大変なことになる」と分かっているのに、どこかまだ他人事のような感覚もありました。
※これは約25年前の私自身の体験です。
当時ホームページに書いていた記録をもとに、今の視点も少し加えてまとめています。
検査や手術についての記述は、当時私が主治医から受けた説明と実際の体験をもとにしています。
手術を決めた日
手術を受ける意思を主治医に伝える日。
夫にもきちんと説明を聞いてもらうため、二人で病院へ行きました。
診察室に入ると、なんと白衣の人が6人。
どうやら医学部の学生の実習だったようです。
股関節がどのくらい動くのか、
その角度を測るために、先生が説明しながら私の足を動かします。
すると、学生さんたちが一斉にのぞき込む。
ちょっと照れる(笑)。
でも、そのおかげというわけではありませんが、
夫も一緒に手術について細かい説明を聞くことができました。
いよいよ本当に手術をするんだ。
少しずつ現実味が増してきます。
手術は順番待ちで、時期は4月頃。
それまでにやることとして説明されたのが、
・自己血貯血
・MRI検査
などでした。
手術に備えて「自分の血」を貯める
まずは貯血のための外来へ。
担当の先生は、とにかく声が大きい(笑)。
待合室まで全部聞こえているんじゃないかと思うくらいでした。
血液検査の結果を見た先生が一言。
「これじゃ寂しいなっ」
何が寂しいのかと思ったら、
「少し貧血気味で、このままだと貯血が大変」
という意味でした。
そこで、冊子を指さしながら一気に説明。
なぜ貯血が必要なのか。
血を作るためにはどんな食事をしたらいいのか。
貯血当日はどう過ごしたらいいのか。
そして私は、鉄剤を約1か月飲むことになりました。
これがまた、なかなかつらかった(笑)。
なぜ自分の血を貯めておくの?
当時私が受けた説明では、
手術中に輸血が必要になった場合に備え、
あらかじめ自分の血液を採って保存しておくというものでした。
自分の血液を使えるように準備しておく。
それが自己血貯血です。
私の手術では、
400mlを3回。
合計1200mlを手術前に貯める予定になりました。
「自分の手術のために、自分の血を準備しておく」
そんなことも、それまでの人生では考えたことがありません。
手術をするということは、
手術当日だけの話ではないのだと、
このあたりから実感するようになりました。
MRI検査へ
そしてMRI検査。
大学病院というのは、とにかく何をするにも一日では終わりません。
診察。
検査。
また別の日に別の検査。
そのたびに予約を取り、仕事を休んだり半日休暇を取ったり。
ようやく迎えたMRI当日。
撮影室の前にはストレッチャーに乗った患者さんもいて、妙に「病院なんだなぁ」と実感する空気でした。
順番が来て中に入ると、
白い大きな輪っか。

テレビで見たことがあるやつです。
私は足から入る形で寝かされ、その輪っかの中へ。
「これがMRIか~」
なんて、結構冷静に観察していました(笑)。
ところが、
「あの……ポケットに硬貨入ってますよね?」
と言われる。
またやってしまった(笑)。
検査前に金属類を外すよう言われていたはずなのに、ポケットに硬貨が残っていたようです。
股関節の撮影は無事終了。
この検査結果も使って、私の股関節の状態をさらに詳しく確認していくことになりました。
執刀医の最終診察
手術前には、執刀医による最後の診察もありました。
レントゲンやCT、さらに立体的に見える画像などが並びます。
それがもう、びっくりするほどリアル。
左右の骨の形が全然違う。
股関節の高さも違う。
そして何より、
骨頭がほとんどはまっていない。
普通のレントゲンを見ているだけでは、私にはよく分からなかった状態まで見えてきます。
先生たちは画像を見ながら、
「何センチ?」
「何度?」
と話しています。
前回も書きましたが、本当に設計図を見ているようでした。
「なんだか工作みたいだな」
と思ったのを覚えています。
もちろん実際に切るのは木でも金属でもありません。
私の骨です(笑)。
この状態を手術で変えるのだと思うと、改めて大変な手術を受けるのだと実感しました。
血栓症についても説明を受ける
手術前には、血栓症についての説明もありました。
下肢の大きな手術で、しかも術後しばらく自由に動けない。
そのため血栓ができるリスクがあり、予防が必要だという説明でした。
弾性ストッキングを使用したり、足に刺激を与えたり、薬を使用したり。
さらに検査として、
・静脈造影
・肺血流検査
などの説明も受けました。
初めて聞く言葉ばかり。
検査や説明が増えるたび、
「すごい話になってきたな」
というのが正直な感想でした。
いよいよ1回目の貯血
そして1回目の貯血。
ベッドに横になり、血圧を測って準備します。
そこで採血用の針を見て、
「太い……」
と思いました。
刺されるときの痛みは、それほどでもありません。
そして自分の血液が、どんどんバッグの中にたまっていきます。
これがなんだか不思議で、
ちょっと感動(笑)。

約10分で400ml。
その後は点滴などの処置がありました。
先生が事前に、
「これからが痛いんだよ~」
と言っていた処置もあって、
本当に、
痛い(笑)。
2回目の貯血で分かった「血って大事」
2回目も、貯血そのものは特に問題なく終了しました。
ところが、その後。
異常に疲れる。
ちょっと動いただけで息切れします。
「無理しないでね」
と言われて、初めて自分の体の状態を実感しました。
400mlずつとはいえ、自分の体から血液を採っているのです。
それを何回も繰り返す。
当たり前なのですが、
血って、本当に大事なんだな。
そんなことを改めて実感しました。
そして、4か月の入院準備
検査や貯血と並行して、家では入院の準備も始めました。
なにしろ約4か月です。
数日の入院ではありません。
しかも手術後は、しばらく自由に動くこともできません。
病院から渡される入院案内には、パジャマや洗面用具など基本的な持ち物は書いてあります。
でも、
「4か月を少しでも快適に、できれば楽しく過ごすには何が必要か」
という視点までは、当然ながら書いてありません。
そこで私は、長期入院経験者の話なども参考にしながら、あれこれ準備しました。
心配性なものですから、
「あれも必要かも」
「これもあった方がいいかも」
と考えているうちに、
一部屋引っ越すような勢い(笑)。
もちろん、結局使わずに持って帰ってもらったものもたくさんありました。
その中でも、実際に「これは持ってきてよかった」と思ったものがあります。
マジックハンドは本当に必需品だった
これは、かなり役に立ちました。
私が買ったのは「カラフルアイアンハンド」。
おもちゃ屋さんで800円くらいだったと思います。
いわゆるマジックハンドです。
これが本当に何でもできる。
床に落としたものを拾う。
少し離れたところにあるものを取る。
引き出しの中のものを動かす。
カーテンを引く。
車椅子になってからも大活躍しました。
手術後は、目の前に物が落ちても自分では取れません。
そんなとき、いちいち誰かを呼ばなくてもいい。
「人に頼らなくて済む」
これが精神的にものすごく大きかったです。

孫の手と針金ハンガーも侮れない
孫の手。
もちろん、かゆいところに手を届かせるためです。
でも、それだけではありません。
ちょっと引っかけたい。
靴を履きたい。
少し向こうのものを手前に寄せたい。
そんなときにも使えます。
針金ハンガーも、形を変えればいろいろ使える。
マジックハンドより、こちらの方が使いやすい場面もありました。
人間、動けなくなると身の回りにあるものを何でも道具にします(笑)。
「すべて吊るす」がコツ
手術後は、しゃがむどころか、
かがむことすらできません。
そこで役立ったのが、
・S字フック
・マグネットフック
でした。
とにかく、
すべて吊るす。
化粧品。
本。
お菓子。
リモコン。
よく使うものは全部、自分の手が届くところに置いておきます。
動けないのに、
「あれが取れない」
「これが届かない」
というのは結構なストレスです。
我慢は体に良くないですから(笑)。
タオルはいくらあってもいい
タオルもかなり使いました。
バスタオルからハンカチサイズまで、いろいろ。
特に自分で洗濯できない期間は、フェイスタオルもたくさん使います。
新品ばかりではなく、少し使い慣れたものも便利でした。
用途によっては、新品のふかふかしたものより、少し薄くなった柔らかいタオルの方が使いやすいこともあります。
寝たきりだからこそ役立ったもの
アルコールウェットティッシュも重宝しました。
寝たきりの時期は、手を洗いたくても自分で洗面所へ行けません。
そんなとき、枕元にあると便利でした。
動けるようになってからも、共有物の多い病院では何かと使います。
そして、ビニール風呂敷。
最近はあまり見かけませんが、これも万能でした。
ベッドの上で食事するときの下敷き。
体を拭いてもらうときの防水。
顔を洗うときの水濡れ対策。
とにかく、
「濡らしたくないところを守る」
のに便利でした。
「ひもパン」も便利でした
ひもパン。
と言っても、
色っぽい方を想像しないでくださいね(笑)。
横がひもになっていて、結んだりほどいたりできる下着です。
術後の消毒などのときに、全部脱がなくても横をほどけばいいので便利。
私は持っていなかったので、自分のパンツをほどいて、ひもを付けました。
必要は発明の母です(笑)。
小さな懐中電灯も便利
消灯後、ちょっと探し物をしたい。
でも、周りの人は寝ています。
そんなときに役立ったのが小さな懐中電灯。
枕元の照明をつけなくても手元を見ることができます。
そして、
こっそり雑誌を読むのにも使えます(笑)。
長期入院では、こういう小さな便利さが意外と大事でした。
小さいポットも活躍
病棟に給湯器があっても、自分が車椅子だとコップにお湯を入れて運ぶのが難しい。
そこで、小さなポットに入れて持ち歩いていました。
ものすごく地味ですが、
地味に便利。
入院生活って、こういう「ほんの少し不便」を解消してくれるものが役立つんですよね。
電気蚊取り機まで持ち込んだ(笑)
季節柄、蚊もいました。
ところが8人部屋に電気蚊取り機がひとつ。
しかも期間限定。
8人部屋に1個ってどういうこと?(笑)
ということで、即、自分用を購入しました。
病室なので、香りの強いものは避けて無香料。
4か月も暮らすとなると、病室は一時的な滞在場所ではありません。
ほとんど「生活する場所」です。
だからこそ、自分が少しでも快適に過ごせるようにすることは大切でした。
一番大切だったのは「自分を癒せるもの」
そして、これは絶対に必要だと思ったもの。
自分を助けてくれるもの。
長期入院は、どうしても気持ちが詰まります。
まして私は、しばらくベッドから動くこともできません。
私が持ち込んだのは、
・DVDが見られるノートパソコン
・音楽を聴くためのもの
・通信するためのもの
など。
これにはかなり救われました。
約25年前ですから、今のようにスマホひとつで何でもできる時代ではありません。
今なら動画も音楽も、本を読むのも、家族や友人との連絡も、かなりのことがスマホひとつでできます。
でも、道具が変わっても、
長い入院生活には「自分の気持ちを外へ向けられるもの」が必要
ということは、あまり変わらないのではないかと思います。
ちなみに入院に必要なものとして、
「協調性」とか「我慢」
は、このリストには入れていません(笑)。
でも、大部屋で長く暮らすなら、実はそれが一番必要だったかもしれません。
すべての準備が終わり、あと6日
検査。
診察。
貯血。
家族の生活の準備。
そして自分の入院準備。
ひとつずつ終わっていきました。
そして、
あと6日で入院。
ここまで来ると、さすがに現実味が出てきます。
検査や説明を受けるたびに、
「すごい話になってきたな」
と思っていました。
でも不思議と、
怖いというより、どこか冷静。
「どうなるんだろう」
という気持ちの方が強かったような気がします。
もしかすると、まだ実際の痛さも大変さも知らなかったからなのかもしれません。
準備することが多すぎて、怖がっている暇がなかっただけなのかもしれません。
いずれにしても、もう後戻りはしません。
4か月分の荷物を抱えて、いよいよ入院です。
今振り返って思うこと
約25年経った今でも、手術そのものだけではなく、その前のことを意外なほど覚えています。
大きな声の先生。
「これじゃ寂しいなっ」と言われたこと。
太い採血の針。
MRIに硬貨を持ち込んでしまったこと。
そして、一部屋引っ越すような入院荷物(笑)。
大きな出来事の前って、案外こういう細かいことの方が記憶に残っているものなのかもしれません。
当時の私はまだ、これから始まる4か月の入院生活がどんなものになるのか知りませんでした。
そして当然、
手術後、自分がどれほど動けなくなるのかも。
いよいよ次は、入院そして手術です。
次回
入院し、いよいよ手術の日を迎えます。
そして目が覚めたあとに待っていたのは、それまで経験したことのない「動けない生活」でした。
60代の健康について色々なテーマでまとめています。
60代の健康|記事一覧


コメント