年金はいつ受け取るのが得?|繰上げ・繰下げの損益分岐点を考える|60代からの年金の話⑬

お金のこと

①「ねんきん定期便」チェックしてますか?
②日本の年金制度は2階建て
③年金は男女でこんなに違う
④年金は元が取れるか?
⑤繰り上げ・繰り下げ受給って? 
⑥特別支給の年金とは?
⑦働くと損?在職老齢年金制度とは?
⑧加給年金とは?条件や金額、振替加算まで解説
⑨年金の手取りはいくら?
⑩遺族年金制度とは?①もしものときのための基本
⑪遺族年金制度とは?②2025年改正で何が変わる?
⑫遺族年金制度とは?③夫が亡くなったら年金はいくら?モデルケースで試算 
⑬年金はいつ受け取るのが得?|繰上げ・繰下げの損益分岐点を考える ←この記事


これまで、年金のあれこれについて書いてきました。

年金は通常65歳から受給できますが、
60歳から繰上げて受け取ることも、
70歳や75歳まで繰下げることもできる、

ということはすでにインプット済みかと思います。

年金のことを勉強すればするほど気になること、

また同年代の間でよく話題になることのひとつが、

「何歳まで生きれば元が取れるの?」

という話です。

これは以前、「年金は元が取れるか?|60代からの年金の話④」でも取り上げました。

そして、もうひとつ気になる「損得」が、

「いつからもらうのが得なのか?」

ということです。

今回は、繰上げ・繰下げをした場合と
通常受給の場合の損益分岐点を比べながら、

数字だけではなく、60代以降の働き方や価値観も含めて考えてみたいと思います。

受給開始年齢で年間受給額は大きく変わる

繰上げ・繰下げ受給って?|60代からの年金の話⑤

で詳しく書いていますが、年金は60歳から繰上げ受給すると、

1か月早めるごとに0.4%ずつ減額されます。

反対に、65歳から受給開始を繰下げると、
1か月遅らせるごとに0.7%ずつ増額され、
最長75歳まで繰下げることができます。

65歳受給を100%とすると、

  • 60歳から受給:76%
  • 65歳から受給:100%
  • 70歳から受給:142%
  • 75歳から受給:184%

となります。

受給開始を遅らせるほど、毎年受け取る金額は大きく増えていきます。

そして、一度受給を開始すると、減額率または増額率は生涯変わりません。

そのため、

「結局、どれが得なの?」

という悩ましい問題が発生します。

※繰上げ受給の減額率が1か月あたり0.4%となるのは、昭和37年4月2日以降生まれの方です。日本年金機構は、繰上げ後の年金額は生涯減額され、請求後の取消しはできないと案内しています。

では、何歳で逆転するの?

一例として、65歳からの受給額を年間200万円、

月額約16万6,667円とした場合をモデルに試算し、グラフにしてみました。

ここが、よくいわれる「損益分岐点」です。

累計受給額で比較すると、

  • 60歳繰上げを65歳受給が超えるのは、80歳11か月
  • 65歳受給を70歳繰下げが超えるのは、81歳11か月
  • 70歳繰下げを75歳繰下げが超えるのは、91歳11か月

となります。

また、グラフの点線部分、
最も早い60歳繰上げを、
最も遅い75歳繰下げが超えるのは、85歳7か月です。

ちなみに、65歳受給と75歳繰下げを直接比べた場合は、

86歳11か月で75歳繰下げが上回ります。

グラフを見て、ちょっと面白いと思ったのは、

60歳繰上げ・65歳受給・70歳繰下げの3つは、

どれとどれを比べても損益分岐点が
80歳から82歳ごろに集中していることです。

一方、70歳受給と75歳受給を比べた場合だけは、
損益分岐点がかなり遅くなります。

75歳まで繰下げると、
受給を始めるまでの空白期間が長い分、
追いつくまでにも時間がかかるということですね。

ただし、損益分岐点は後ろにずれるものの、
その後、長生きすればするほど受給総額の差は大きくなります。

※この試算は、65歳時点の年金額を年間200万円で固定し、税金・社会保険料、年金額の改定、在職による支給停止などを考慮しない単純計算です。

年齢ごとの累計受給額を比べてみる

こちらは、年齢ごとの累計受給額です。

折れ線グラフだけでは分かりにくい方も、
こちらを見ると、

それぞれの年齢までに受け取った年金の総額を確認できます。

95歳まで生きた場合、
60歳繰上げと75歳繰下げの差は、実に2,000万円を超えます。

こうして数字だけを見ると、
長生きするなら繰下げた方が得、という結論になりそうです。

でも、人の人生は数字だけでは決まりません。

同年代の考え方は?

同年代が集まると、自然に話題は年金や健康のことになってきます。

でも、人の考えはあまり参考になりません。

みんな、あまりにも違うからです(笑)。

仕事を続けながら、60歳から繰上げ受給して全額貯金

貯金が得意な人には、いい方法かもしれません。

でも、私はお金があったら使ってしまうので×。

頑張って働き続けて、75歳まで繰下げる

75歳まで働き、今の給料に近い年金額で暮らしたいという人もいます。

75歳まで元気に働けて、その後も90歳を超えて溌剌と暮らせれば、一番いいのかもしれません。

65歳を超えてまで働きたくない。何とか年金で細々と暮らす

貯金がそこそこあり、そこそこの年金をもらえる方なら、これもひとつの選択です。

でも、私は貯金が苦手なので×。

60歳からさっさと繰上げてもらい、全額旅行に使う

生活に余裕のある方ほど、早く受け取ることに抵抗がないような気もします。

ただし、年金を生活費に使わなくてもよい方限定ですね。

私の年金は生活費になるので×。

少し聞いただけでも、こんな意見がごろごろ出てきます。

損益分岐点を気にしつつも、

自分の健康寿命や寿命に対する感覚、
仕事への向き合い方、
生活スタイルに大きく左右されることが分かります。


平均寿命と健康寿命だけでは決められない

ネットで年金の損得について検索すると、
さまざまな体験談が出てきます。

たとえば、

「長生き家系ではなく、祖父も父も70代半ばで亡くなっているから」

と繰上げを選択。

元気なうちに年金を使って楽しんでいたものの、

80歳を過ぎても元気で、次第に医療費もかかるようになり、

「繰上げて損をした」

と感じた、という話。

その一方で、

1.5倍近くまで増えるのを待とうと、70歳まで頑張って働いた。これから余裕のある年金で楽しもうと思ったところ、健康に問題が出てしまった。

そして、

「もっと早く受け取って、元気なうちに楽しんでおけばよかった」

と感じた、という話もあります。

確かに、健康でなければ旅行や趣味を思うように楽しめないかもしれません。

でも、病気になれば、結局お金もかかります。

先の分からないことに損得を当てはめようとすること自体が、

リスクなのではないかと個人的には思います。

65歳を超えて働く人は増えている

一方で、今の60代・70代は、働き方も大きく変わっています。

この15年ほどで、
60~64歳、65~69歳、70歳以上の
いずれの年代でも就業率は上昇しています。

2023年には、

  • 60~64歳:74.0%
  • 65~69歳:52.0%
  • 70歳以上:18.4%

となっています。

60~64歳では7割以上、
65~69歳でも半数以上の方が働いています。

65歳を過ぎても働くことは、もう特別なことではありません。

「生涯現役」という言葉を聞いたことがあると思います。

企業には65歳までの雇用を確保することが義務付けられています。

さらに、65歳から70歳までの就業機会を確保することも、企業の努力義務となっています。

70歳定年が義務化されたわけではありませんが、希望する人がより長く働ける環境を整える方向に進んでいます。

ハローワークにも「生涯現役支援窓口」があり、おおむね60歳以上の方を対象に、再就職などの相談に乗ってくれます。

そのため、

「70歳まで働く予定だから、それまでは年金を繰下げよう」

という選択もしやすくなっています。

年齢によって働く理由も変わる

では、高齢者は何のために働いているのでしょうか。

60代前半では「収入のため」が圧倒的ですが、年齢が上がるにつれて、

  • 働くことは体によく、老化を防げるから
  • 自分の知識や能力を生かせるから
  • 仕事を通して友人や仲間を得ることができるから
  • 仕事が面白いから

といった理由の割合も増えてきます。

働くことは、お金を得るだけではなく、
生きがいや健康づくり、
人とのつながりという意味も持つようになることが分かります。

「働かなければならない」から、自分で選択して、

「働きたいから働く」

という形に、少しずつシフトしていくのですね。

私は60歳を超えた年に、一度自分で選択し、今の働き方にシフトしました。

そのとき、肩の重荷を下ろしたような解放感を覚えました。

「何のために働いているのか?」

一度考えてみるのもいいかもしれません。

でも個人的には、別に立派な目的などなくても、

「まだ働いてもいいかな」

と思ったら続けるくらいで、まったく問題はないという考えです。

夫が定年退職して家にいるようになったので、

何とか自分の働き口を探した、という方も少なからずいます(笑)。

私はこう考えています

私は、働ける限り働きたいと思っています。

これは、もともと仕事が嫌いではなく、
仕事と自分の時間を両立できるタイプだからだろうと思います。

もっとも、3人の子どもを育てながら、
ずっとフルタイムで働いてきました。

一番忙しかったころに比べたら、
今は天国のようなものなので、慣れも大きいのでしょうね。

推し活もやめられないと思いますし、

今の仕事ができるうちはそのまま働き、年金は繰下げる。
リタイアするときに、給料から年金へ切り替える。

そんな具合にしようかなと思っています。

年金を繰下げて、仮に損益分岐点を迎える前に人生が終わったとしても、

「損したー! 悔しいっ!」

と思いながら人生を終えることはないと、一応自信があります(笑)。

損益分岐点だけでは決められない

ここまで見てきたように、数字だけを見ると、

長生きした場合の繰下げ受給には大きなメリットがあります。

しかし、実際には人それぞれ事情が違います。

何歳まで働きたいのか。

元気なうちに何をしたいのか。

毎月の生活費にいくら必要なのか。

貯金がどのくらいあるのか。

そして、老後にどんな暮らしをしたいのか。

どれが正解ということではありません。

大切なのは、

「何歳まで生きるか」だけではなく、どんな老後を送りたいか。

年金は損得だけで決めるものではなく、自分らしい人生設計の一部として考えるものなのだと思います。


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